Quaife「LSD」

Quaife「LSD」
  • TOP >
  • Quaife「LSD」
LSDってなに?
LSDは、リミテッド・スリップ・デファレンシャルの頭文字を取った呼び名です。クルマがコーナーを曲がる時には、4輪がそれぞれ異なった軌道を通るため、4つのタイヤの走行距離が変わってきます。FF車のリヤや、リヤ駆動車のフロントなど、フリーになっているタイヤは、この軌道距離の差を考える必要はありません。ところが、いわゆる駆動輪は、この軌道距離の差を吸収する機構が必要になってきます。この装置のことを、デファレンシャルと呼んでいます。
このデファレンシャルは、左右の回転差を吸収してくれる働きをするのですが、ひとつだけ課題を持っています。それは、どちらか一方の接地が失われると、駆動力がそこから逃げてしまうことです。片側のタイヤが浮いたり、あるいは極端にグリップを失う路面に乗ったりすると、加速力が得られなくなってしまうのです。
モータースポーツなどでは、コーナリング時の横Gが強くかかるため、片輪が浮いて接地が失われることがあります。そうした時に加速力を減退させないように考えられたのが、左右の回転差を適度な状態で抑え込む「差動制限装置」で、これをリミテッド・スリップ・デファレンシャルと呼んでいます。
LSDにはどんな種類があるの?
差動を制限する機構は、様々なタイプのものが存在しています。最も一般的に知られているのは、ピニオンの力がカムを押し広げ、その力でプレートを圧着させて回転差を抑え込む、機械式LSDと呼ばれているものです。この機構の特徴は、ピニオンに掛かるトルクによって強制的に差動を抑制するため、強力な差動制限力が得られることです。
プレート型の機械式LSDの他に、ウォームギアを組み合わせて作られた、クワイフ社製の「トルセン型LSD」や、機械式のプレートを油圧制御で差動させるもの、充填されたオイルの剪断力を利用して差動を抑えるビスカスカップリング型などが、一般的な自動車に撮要されているLSDです。
機械式LSDの特徴とトルセン型LSDの特徴の違いは?
プレート型の機械式LSDは、プレートの摩擦力によって差動を抑える機構なので、プレートの枚数や組み合わせで強力な差動制限力を得ることができます。ですが、プレートの摩耗でLSD効果が変化してしまうため、専用のギヤオイルの使用、定期的なメンテナンスと調整が必要です。ラリーカーなどの場合では、シーズン中に1回、または2回ほど、オーバーホール、調整を行っています。
トルセン型LSDは、ヘリカルギアの摩擦力で差動を制限する機構なので、特別な調整は必要なく、専用のオイルを使用する必要もありません。ですから、ほぼメンテナンスフリーになります。ちなみに、アウディなどの4WDでは、左右輪だけでなく。前後輪の差動を吸収する必要があるため、3つのデファレンシャルを持っています。このセンターデフには、トルセン型LSDが使われているモデルも少なくありません。
一般的なシーンでも効果絶大?
モータースポーツはしないし、過激な走りもしないから・・・、と思っている方も少なくないでしょう。ところが、LSDの効果は、様々なシーンに関係してきます。最も顕著なのは、風雨の時などの安定感が増すことです。特に、高速道路の走行などでは、その違いは歴然としています。少しフラつく感覚が嫌い、あるいはもう少し直進性が欲しいといった不満をお持ちの際には、LSDの装着をお勧めします。
Quaife ATBヘルカルギヤLSDの最大の利点
トルセンとは、トルクセンシングを略した呼び名です。一方の接地圧が失われた際に、そちら側に強制的に駆動トルクを伝達させる仕組みだからです。機構的には、駆動トルクが伝達されている時には、いわゆる通常のオープンデフと同様の働きをしていて、実はこれがドライブフィールに大きく関係してきます。強制的に差動を制限するプレート型の機械式LSDの場合は、左右輪の回転差を均一化する働きがあるため、ターンインなどでの回頭性が鈍くなってしまう傾向があります。
ひと言でいえば、ドライブフィールに独特なクセが生じてしまうのです。ところが、ヘルカルギアLSDの場合は、オープンデフと同じ感覚で、回頭性が変化することもありません。存在を意識することなく、しかし必要な際には有効に作用してくれます。メンテナンス性にも優れ、独特なクセのない扱いやすいLSD。それがヘリカルギヤLSDの最大の特徴、メリットなのです。
RTクワイフ社について
クワイフ社は、1965年に、英国のケント州に設立されたギヤのトップブランドです。設立当初は2輪のミッション用のギヤを製造し、4速MTを5速MTにするキットでその名を広げました。ところが、60年代の後半に2輪産業が大きく縮小されたことに伴い、4輪用のギヤの開発に傾倒していきます。フォード・エスコートMk1用のクロスレシオのギヤを開発し、ギヤとギヤボックスの開発、製造を進めていきます。
60年代に入るとモータースポーツ活動にも積極的に関わるようになります。トライアンフやノートンなどの2輪レースで様々な功績を残していますが、70年代には4輪モータースポーツにも参加していきます。最も輝かしい戦績はF−1での優勝です。クワイフ社のATBヘリカルギアLSDを装着したベネトンBMW(ゲルハルト・ベルガー)が、86年のメキシコGPで勝利。アイルトン・セナ、アラン・プロストを抑えての初優勝に貢献しています。
その後は、独自のシーケンシャル・ギアボックスの開発や、グループNラリーカー用のヘリカルギヤLSDを開発。数多くの対応車種を持っています。
 あとがき・・・
20代の頃に参加していたラリーには、EP71(スターレット)で挑んでいた。実は、そのEP71に、クワイフを組み込んでいた。当時、ワンメイクレースのミラージュカップだったと記憶しているが、機械式LSDとクライフではトップスピードに差が出ると言われ、上位陣のほぼ全員がクワイフで参戦していたのだった。それを知っていたため、当時としては珍しかったクワイフを輸入して貰って装着。実際に、その効果のほどを目の当たりにしたのである。ダートやスノーの路面では、正直なところ機械式LSDの利点の方が大きかった感覚だ。強制的に左右輪の回転差を規制する機械式LSDは、パワーオンでテールスライドを誘発することもできる。ところが、クワイフは基本的にグリップ走行に近い感覚で走る必要があり、ダートでもサーキット的な走り方が求められるのだ。グリップのいい路面をキープする感じで、特にライン取りには気を遣った。ところが、舗装のステージは、クワイフの利点の方が際立つのである。LSDのキックバック的なものが一切なく、微妙なライン修正ができる。ダートのステージでトップタイムを取れたのは片手に収まる位だが、ターマックのステージは逆に取れなかった方が少ないほどだった。そして、何よりも有り難かったのが、メンテナンスの費用が抑えられたこと。機械式LSDは、専用のデフオイルを必要とし、ロッキングファクターを維持するために定期的なオーバーホールが必要になる。長丁場を走るラリーの場合は、シーズン途中に一度はオーバーホールする必要があるほどなのだが、クワイフは一般のデフオイルでOKで、しかもメンテナンスを必要としない。少なくてもシーズンオフ毎のオーバーホールを行わなくて済み、かなりのコスト軽減にもなった。ちなみに、愛車2号のゴルフ3には、同じタイプのLSDを組み込んでいる。パワーが大きくないモデルや、ハンドリングにクセが出てしまうのが嫌いなタイプのドライバーには、とても有り難いチョイスだろう。
PAGE TOP▲